認知症
認知症とは(高齢者と複合病理、予防法)
「最近、物忘れが気になる」「認知症ではないかと心配」といった不安は、ご本人様やご家族様にとって非常に大きなものです。認知症は単一の病気ではなく、原因となる脳の病変によって様々なタイプに分類されます。
当院では、日本神経学会神経内科専門医・指導医である院長が、詳細な問診と検査に基づき、認知症のタイプを正確に診断し、それぞれの病態に合わせた適切な治療と生活サポートを提供いたします。
認知症の主要なタイプ
認知症は、原因となる病気によって、症状の現れ方や進行の仕方が異なります。主な認知症のタイプについて解説します。
| 疾患名 | 原因となる病変 | 主な特徴的な症状 | 進行速度 | 治療アプローチ |
|---|---|---|---|---|
| アルツハイマー型認知症 (AD) | アミロイドβやタウタンパク質の異常蓄積による脳細胞の変性・脱落 | 新しい記憶の障害(物忘れ)から始まることが多い。見当識障害、実行機能障害。進行すると人格変化やBPSD(行動・心理症状)が現れる。 | 比較的緩やか | 進行抑制薬(コリンエステラーゼ阻害薬など)と非薬物療法。生活習慣病の管理。 |
| 血管性認知症 (VaD) | 脳梗塞や脳出血などの脳血管障害による神経細胞の破壊 | 症状が段階的に進行する(まだら認知症)。病巣の位置により、麻痺や言語障害などを伴うことがある。感情失禁(些細なことで泣いたり笑ったりする)が特徴的。 | 階段状 | 脳血管障害の再発予防(高血圧・糖尿病などの生活習慣病管理)が最重要。 |
| レビー小体型認知症 (DLB) | α-シヌクレインというタンパク質の異常蓄積(レビー小体) | 認知機能の変動(良い時と悪い時がある)、幻視(実際にはないものが見える)、パーキンソン症状(手の震えや動作の鈍さ)、レム睡眠行動障害(寝ている間に大声や体動がある)。 | 個人差が大きい | ドパミン系やアセチルコリン系を考慮した薬物調整。BPSDへの慎重な対応。 |
| 前頭側頭型認知症 (FTD) | 脳の前頭葉や側頭葉の神経細胞の変性 | 行動の異常(社会性の逸脱、脱抑制、常同行動)や、言語障害(意味記憶の障害や流暢性の低下)が目立つ。物忘れは比較的目立たないことが多い。 | 比較的早い | 薬物療法は限定的。行動管理のための環境調整と生活サポートが重要。 |
補足:治る可能性のある認知症
上記のタイプ以外にも、治療によって改善・完治が期待できる認知症(または認知症のような症状)もあります。
- 正常圧水頭症 (NPH):歩行障害、認知機能低下、尿失禁が三徴候。シャント手術で改善が見込める。
- 慢性硬膜下血腫:頭部外傷後に脳表面に血の塊ができる。手術で除去可能。
- 甲状腺機能低下症、ビタミン欠乏症、薬剤性、うつ病など:原因となる疾患の治療や薬剤の調整で改善が見込める。
高齢者の認知症における「複合病理」の理解
特に高齢者の方の認知症を診療する上で、最も重要な概念の一つが複合病理です。
複合病理とは
複合病理とは、一人の患者様の脳の中に、複数の異なる認知症の原因となる病理(病変)が同時に存在している状態を指します。
従来、認知症は「アルツハイマー病はこれ」「血管性認知症はこれ」と単一の疾患として捉えられがちでした。しかし、近年では、80歳以上の認知症患者を対象とした病理解剖(死後の脳の検査)の結果、ほとんどのケースで複数の病理が混在していることが明らかになっています。
混在の具体例
| 混在パターン | 概要 | 臨床上の特徴 |
|---|---|---|
| AD + VaD | アルツハイマー病の病変(アミロイド・タウ)と、脳梗塞・微小出血などの脳血管障害が共存している状態。 | 記憶障害が目立つ中で、感情失禁や歩行障害など血管性認知症の特徴も併せ持つ。最も頻度の高い多重病理の一つ。 |
| AD + DLB | アルツハイマー病の病変と、レビー小体病変(α-シヌクレイン)が共存している状態。 | 記憶障害に加えて、幻視やパーキンソン症状が早期から出現することがある。 |
| 三重病理 | アルツハイマー病変、血管性病変、レビー小体病変の3つが混在している状態。 | 症状の現れ方が非常に複雑になり、診断や治療薬の調整が難しくなる。 |
複合病理が重要な理由
(1) 症状の複雑化と診断の難しさ
複数の病理が関与することで、典型的な認知症の症状から逸脱し、症状が非典型的で複雑になります。純粋なアルツハイマー型認知症の治療薬だけでは効果が限定的であることも多く、専門医による多角的な視点が必要です。
(2) 治療アプローチの多層性
複合病理を持つ患者様には、単一の疾患に対する治療では不十分です。
- AD病理へのアプローチ:アセチルコリン系を介した進行抑制薬の使用。
- VaD病理へのアプローチ:高血圧、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病を徹底的に管理し、新たな脳血管障害の発生を防ぐこと。
- DLB病理へのアプローチ:パーキンソン症状や幻視への対応。
[図解] 認知症における複合病理の概念
[高齢者の脳において、アルツハイマー病(AD)の病理(アミロイドプラークやタウの蓄積)、血管性病理(脳梗塞や微小出血)、レビー小体病理(α-シヌクレインの蓄積)が、一つの脳の中で混在し、相互に影響し合っていることを示す模式図のプレースホルダー。]
診断の重要性と当院の役割
複合病理が存在する中で、患者様一人ひとりに最適な治療を提供するためには、「どの病理が最も症状に関与しているか」を正確に見極めることが不可欠です。
| 診療内容 | 目的 |
|---|---|
| 詳細な問診 | 症状の経過、出現順序、変動の有無、家族歴、服用中の薬などを確認し、多重病理の可能性を推測する。 |
| 神経学的診察 | ふるえ、動作の鈍さ(パーキンソニズム)、歩行のふらつき、反射などを評価し、DLBやVaDなどの非AD病理の有無を判断する。 |
| 生活習慣病管理 | 総合内科専門医の視点から、高血圧、糖尿病、脂質異常症などを厳格に管理。頸動脈超音波検査などで実際の血管への影響を評価し、血管性認知症の予防と進行抑制を最優先する。 |
| 連携 | 専門的な画像検査(VSRAD、SPECT、PETなど)が必要な場合や、入院・手術が必要な疾患(NPHなど)が疑われる場合は、迅速に専門病院へご紹介します。 |
認知症の予防
認知症の危険因子の中で改善可能な因子として低教育、聴力障害、高血圧、肥満、頭部外傷、過剰な飲酒、喫煙、うつ病、身体不活動、社会的孤立、糖尿病、大気汚染が報告されています。
これらの危険因子について対策を講じることで世界の認知症発症の約40%を遅延・予防できると推計されています。
しかし、危険因子に個別に介入を行っても認知機能低下・認知症の抑制効果は限られており、複数の危険因子に同時に介入することが大事であります。
つまり、我々が出来ることは、生活習慣病管理や生活習慣や、社会環境を良くすることなのです。目新しい治療法などに目がいきがちですが、王道は地味なものであります。
また、最近の話題として、帯状疱疹(shingles)ワクチンは、新たな認知症診断の確率を約7年間で5分の1に減少させたことが、英国ウェールズの集団を対象とした大規模研究で明らかになり、その結果を報告する論文が、Natureに掲載されました。50歳以上の方は帯状疱疹ワクチンを検討することは良さそうです。
