本態性振戦
本態性振戦(ほんたいせいしんせん)
「字を書くときに手が震える」「コップを持つ手が小刻みに震える」といった症状は、日常生活に大きな影響を与えます。
本態性振戦は、手の震え(振戦)を主症状とする最も一般的な運動障害の一つですが、適切な診断と治療によって症状を緩和し、生活の質(QOL)を改善することができます。
当院では、日本神経学会神経内科専門医・指導医である院長が、他の疾患との鑑別を含め、正確な診断と患者様一人ひとりに合わせた最適な治療を提供いたします。
本態性振戦とは
本態性振戦は、脳の特定の機能異常が原因で起こる病気で、特に動作をしている時や特定の姿勢をとっている時に手の震えが起こることを主な特徴とします。
パーキンソン病の震え(安静時振戦)とは異なり、「何かをしようとする時」に震えが強くなるのが特徴です。
| 症状タイプ | 特徴 |
|---|---|
| 発症年齢 | 幅広い年齢層で発症しますが、高齢になるほど有病率が高くなります。 |
| 震え(振戦)の性質 | 動作時(コップを持つ、字を書く、箸を使うなど)や、特定の姿勢を保つ時(手を前に差し出すなど)に、小刻みな規則正しい震えが生じます。 |
| 部位 | 手の指や腕に最も多く見られますが、頭部(首)、声(声帯)、体幹などにも生じることがあります。 |
| 遺伝 | 約半数に家族内発症(血縁者に同じような症状がある)が見られるため、遺伝的な関与が指摘されています。 |
| 進行 | ゆっくりと時間をかけて進行することが多いですが、進行速度には個人差があります。 |
症状と日常生活への影響
本態性振戦は、生命に関わる病気ではありませんが、日常生活の様々な場面で不便や精神的な苦痛をもたらします。
- 食事の困難: 箸やスプーンが震えて食べ物がこぼれる、汁物を飲むのが難しい。
- 書字の困難: 字が震えて読みにくくなる、サインや記入が困難になる。
- 身だしなみ: 化粧や髭剃りなど、手先を使った細かい作業が難しくなる。
- 社会的ストレス:人前で震えを指摘される、注目されることによる精神的な負担や不安(パフォーマンス恐怖)。
特に手の震えがストレスとなり、不安や緊張が高まると、さらに震えが増強するという悪循環に陥ることもあります。
当院での診断と治療
手が震える症状の原因は、本態性振戦以外にも、パーキンソン病、甲状腺機能亢進症、薬剤の副作用、脳血管障害など多岐にわたります。そのため、正確な鑑別診断が非常に重要です。
正確な鑑別診断
当院では、脳神経内科専門医による詳細な問診と神経学的診察に基づき、震えの原因を特定します。
- 問診: 震えがいつ、どのような状況で起こるか(安静時か、動作時か)、家族歴、服用中の薬などを詳細に確認します。
- 診察: 震えのパターン(頻度、振幅、対称性)や他の神経症状(動きの遅さ、筋肉のこわばりなど)を専門医が評価します。
- 鑑別検査: 必要に応じて、以下の疾患を除外するために血液検査などを行います。
- 甲状腺機能亢進症: 甲状腺ホルモンの過剰が原因の震え(かなり細かい震え)を除外するために、血液検査を行います。
- 薬剤性振戦: 服用中の薬剤が原因の震えを除外するために、総合内科専門医の視点から内服薬の確認を行います。
治療方針
震えが軽く、日常生活に大きな支障がない場合は、経過観察となることも多いですが、生活の質(QOL)を大きく損なっている場合は、薬物治療や生活指導を行います。
薬物療法
本態性振戦の薬物治療は、主に以下の薬剤を用いて震えを緩和します。患者様の状態や合併症、他の内服薬などを総合的に判断し、最適な薬剤を選択・調整します。
- β遮断薬: 心臓や筋肉の興奮を抑えることで震えを和らげる効果が期待できます。
- 抗てんかん薬: 脳の神経興奮を抑える作用を持つ一部の薬が、震えの改善に用いられます。
薬の選択や量は、効果と副作用のバランスを考慮し、患者様と"賢明な選択(Choosing Wisely)"をめざします。
非薬物療法と生活指導
- リラックス: 不安や緊張が震えを悪化させるため、リラックスできる環境作りやストレス管理が大切です。
- 補助具: スプーンやコップに重りをつけて安定させるなど、自助具の活用も有効です。
専門病院との連携
内服治療で震えの改善が見られず、日常生活に大きな支障がある場合は、外科的治療(脳深部刺激療法:DBSなど)を検討する専門病院へご紹介いたします。
「年のせいだと諦めている」「何科に行けば良いか分からない」といった方も、まずは脳神経内科専門医である当院にご相談ください。皆様の日常生活の質を改善できるよう、継続的なサポートを提供いたします。
